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DV理論の最前線から #3 (09/03/00)

レズビアンDVへの取り組みと抵抗

30年近く前に反DVの運動をはじめたのは男性によるDVの被害を受けた女性たちとその支援者たちで、今でもDV団体でボランティアやスタッフとして働いているのは圧倒的に女性が多いです。 そして、多くのDV団体は「男性から女性への暴力」だけを集中的に扱っており、アメリカでも最近になってやっと女性によるDVの被害にあったレズビアンやバイセクシュアルの女性のための支援体制が出来つつあるのが現状です。

それに対して、DV被害者支援の活動をしている男性も各地に少数存在するのですが、大都市を除くと男性のDV被害者を支援する活動は皆無と言っていいでしょう。 そのため、既存のDV団体には「じゃあ、女性の暴力の被害を受けた男性はどうするんだ」という反発が頻繁に寄せられます。 男性被害者についてはまた別の機会に書く予定ですが、今回はその前段階として女性同士のカップルにおけるDVについて考えてみます。 なお、女性を愛する女性の全てがレズビアンであるという訳ではなく、バイセクシュアルの女性や「自分はレズビアンじゃないけど、特定の女性が好き」という女性などもいますが、本稿では「レズビアン」という言葉で「女性を愛する女性」全体を含めた記述となっているのでご了承ください。

レズビアンの関係におけるDVとは、「男性兔性」のDVと比べてどう違うのでしょうか。 基本的には全てのDV前回述べた通り「一方のパートナーによる他方のパートナーへのコントロールのパターン」で同じなのですが、レズビアンの女性は社会的な女性への差別と同性愛者への差別の影響を受けるため、多少違った傾向が見られます。 以下にいくつか挙げてみましょう。

職場や家族へのアウティング

多くのレズビアンたちは、差別や拒絶を恐れて職場の同僚や家族には自分がレズビアンである事を明かさずに暮らしています。 普段から自分の私生活を隠す必要に迫られているため、DVの被害を受けても相談する相手がほとんどいないという状態になってしまいます。 同僚に相談した結果職場にばれて解雇や嫌がらせされたり、親戚の一人に伝えたところ家族に伝わって勘当されたりする危険があるため、被害者が自動的に孤立してしまうのです。

加害者は当然こうした条件を逆手に取って、「〜しなければあなたの家族にばらす」と脅したり、現実に相手がレズビアンであると職場や家族に伝えて孤立させたりする事があります。 職場へのアウティング(レズビアンであると公表する事)に関して言えば、それで職を失う可能性がある以上、収入面から相手を自分に依存させ、コントロールする道具にもなります。

逆に、家族に既にレズビアンであると知られていた場合、DVについて相談すると「だからレズビアンなんかになるんじゃない」と全く関係のない事について偏見じみた説教をされるなど、きちんと支援をしてくれない事があります。

ホモフォビア

医者やカウンセラーのような信頼できるはずの相手すら、被害者は自分がレズビアンだと打ち明けると変な目で見られるのではないかと恐れるので、必要な医療やカウンセリングも受けない場合が多く、自治体や民間団体が運営する相談電話への相談もしにくいのが現実です。 仮に実際たまたまその団体にはレズビアンの女性の相談にもきちんと応じる意思と能力があったとしても、常に差別や偏見を受けている当事者にとってみれば誰なら信頼できるのか電話帳を見ているだけでは分かりません。

レズビアンの女性が入れるシェルターは数が限られていますし、仮に拒絶されなかったとしても、シェルターのスタッフや他の被害者に嫌がらせをされる可能性がある以上、シェルターすら安全な場所とは感じられないかも知れません。 また、警察や裁判所すらもちゃんと自分を守ってくれると信頼できないため、暴力的なパートナー以外に頼る人はいないと思い込まされる事がよくあります。

小さなコミュニティ

レズビアンやクィアのコミュニティは小さいため、周囲に相談できる人が少なく、DVについて下手に話をするとコミュニティを二分してしまうのではないかと恐れる人が多いです。 また、知り合いの家にかくまってもらおうにも、小さなコミュニティでは簡単に加害者に見つかってしまいます(現に、アメリカのいくつかの大都市にあるクィアDVの団体では、ゲイ男性の被害者はレズビアンの家に、レズビアンの被害者はゲイ男性の家にかくまっていますが、小さな町では不可能でしょう)。 さらに、警察や裁判所に駆け込んだり自分の体験を話したりしたら、今より同性愛者に対する偏見を助長してしまうのではないかと恐れる人もいます。

ジェンダーの神話

レズビアンの一部は活発な女性活動家でもあり、男性による女性の抑圧を中心課題と捉えているため、レズビアンの関係を理想視し、一部の女性が他の女性に対して行う暴力や支配を軽視する事が残念ながらあります。 「女性がそんな事をするわけがない」という偏見は、一見女性に肯定的なポジティブな見方ですが、現実には加害者を弁護し被害者の現実を否定する事になります。

子どもの養育権

女性同士のカップルでも、以前付き合っていた男性との間に子どもがいたり、人口受精で子どもを作ったりする事がありますが、養育権が加害者もしくは第三者に奪われる事を心配して別れられないレズビアンもいます。 加害者の側が産んだ子どもの場合、いくら2人とも母親として接していたとしても、法的には産んだ側だけが正当な親と見なされるので、別れると子どもから引き離される事になります。

以上説明したのは女性同士におけるDVが異性愛のDVとどう違うか、どのような仕組みでレズビアンの被害者は異性愛女性の被害者より不利な状況に置かれているのか、という点でした。 しかし、もともと反DVの運動に参加した絶対数が少なかった男性と違って、昔から反DVの運動には多くのレズビアンが参加していたのにも関わらず、レズビアンの被害者に対する支援がここまで遅れてしまったのは何故でしょうか?

多くの人は「ホモフォビアのせいだ」と言います。 激しい世間の差別や偏見がある以上、マイノリティとして多少内部の問題を誤魔化してでも一致団結せざるを得なかったという説明ですが、これはなかなか説得力があります。 また、差別や偏見の裏返しとして、DVは異性愛関係に固有の問題であると信じる事でレズビアンの関係を理想化しようとしたとしても、それは仕方がなかったかも知れません。 

しかし、ここにはもう1つの問題があります。 女性が他の女性に対して暴力や支配をふるう事を無視あるいは軽視するのであれば、白人女性が非白人女性を差別する事も黙認するのか、という問いかけが、非白人のレズビアンたちから投げかけられたのです。 私の知り合いの白人女性でクィアDVの団体で働いている人はもっとはっきりと、「白人のレズビアンたちは、自分たちが人種差別を行っている事を認めたくがないために、女性が女性に暴力をふるうという現実を認めないのではないか」と言っていました。

女性にとって、異性愛女性のDV被害者の支援なら、何の個人的責任を感じないまま男女差別への反発だけをエネルギーに参加する事ができます。 しかし、自分が時に差別や暴力の加害者の側に立つ事に内面で向き合わずには、女性同士のDVについて取り組むことはできません。 だからこそ、レズビアンDVについての取り組みは、反DV運動全体をよりラディカルに塗り替える可能性を秘めていると思います。

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l i n k s

Communities United Against Violence (サンフランシスコのクィア反暴力団体で、日系人女性を含め非白人の女性がスタッフの多数を占める)

The Network for Battered Lesbians and Bisexual Women (ボストンの老舗レズビアンDVの団体で、バイセクシュアルの女性に続きトランスの女性にも支援拡大)

Northwest Network for Bisexual, Trans and Lesbian Survivors of Abuse (シアトルの団体で、ここもバイセクシュアルとトランスの女性に支援を拡大するため名前を変えたけどウェブページはまだ古い名前AABLのまま)


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