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(e)merging. 第6回 (03/21/99)

結婚後の名字を考える意味

テキスト:

Lisa Miya-Jervis, He's Taking Her Name, from HUES: Hear Us Emerging Sisters January-February, 1999.

Jennifer Allyn & David Allyn, Identity Politics, from "To Be Real: Telling the Truth and Changing the Face of Feminism" Rebecca Walker, ed. (1995)

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法的には常に夫婦別姓が認めていられたアメリカでも、60年代から70年代にかけて起こった第2次フェミニズムによって「女性が結婚時に名字を変えさせられるのは、夫による妻の所有を意味する悪しき制度だ」と指摘されるまでは、少なくとも中産階級の間ではそうした慣習は支配的でした。 男女の平等や女性の自立を根拠に、結婚した女性が結婚前と同じ名字を名乗るケースが増えたのは、第2次フェミニズムの残した影響の1つといえるでしょう。 しかし、最近の日本での議論でも分かる通り夫婦別姓は決して理想的な制度ではなく、さまざまな問題がまだ残っています。

もちろん、究極的には既存の結婚制度を全て拒絶するという選択肢もあります。 というのも、そもそも「恋愛」「結婚」「セックス」は必ずしもセットでなければならない訳でもないでしょう。 あるいは、同じ性のパートナー同士の関係のように、結婚したくてもほとんどの国で認められていないケースだってあります。 しかし、現実に多くの男女が結婚という選択肢に魅力を感じる以上、「結婚後の名字」にまつわる彼らの悩みは真剣に受け止める意味があると思います。 今回は、ある2つの第3次フェミニストのカップルが、どうやって「結婚後の名字」の問題と向き合い、一応の解決を見い出したのか、その経緯を見てみましょう。

まず最初は、Lisa Jervisと彼女の現在の夫、Christopher Miyaのカップルです。 Lisaはフェミニズムの視点からポップカルチャーを批評する雑誌「Bitch」の編集長で、もちろんフェミニスト。 ボーイフレンドのChristopherは日系アメリカ人で、彼もやはりフェミニズムの良き理解者・協力者でした。 そういう2人が婚約したのだから、一方的にLisaが名字をMiyaに変えるべきだなんて事は、もちろんどちらも考えませんでした。

しかし、名字をどうするかという問題は、ずっと彼らの頭の中に残っていました。 一方的にMiya夫妻になるつもりはなかったといえ、結婚する以上は今まで以上に近い関係になりたいと考えていたし、家族としての一体感を感じたいとも思っていたからですが、挙式の準備をしながらも、名前の問題については度々2人で冗談も交えながら相談していました。

例えば、アメリカで一般的によく行なわれる方法として、結婚する女性が自分の名字の後ろにハイフンで夫の名字を繋げるという物があります。 これだと結婚前の名前との併用にも無理がなく、また、自分の名前を保持しながらも家族で同じ名前を持つ事もできるわけです。しかし、男性の名前はそのままなのに女性だけハイフンが付くのはやはり不平等という事もあり、Lisaはこのオプションにはあまり魅力を感じませんでした。

LisaとChristopherは、2人で使える新しい名字を創作する事も考えました。 例えば、MiyaとJervisを組み合わせて何かもっともらしい名字ができないか、と考えたのですが、元々がユダヤ系の名前と日系の名前ですからうまく繋がらないのも無理はありません。

結局いい案が見つからずに、Lisaが自分は「Jervis」の名前をそのまま名乗ろうと思い始めたその頃、Miyaが突然言い出した新しい案にLisaは驚かされます。 「名前にハイフンを付けるのは自分の姓を失いたくない女性だけ」という世間の常識をものともせずに、Christopherは「僕も名字を変えよう、お互いに相手の名字をとってハイフンすればいい」と言い出したのです。

Christopherの提案は、Lisaが自分にとって名前とはどういう意味を持つのかという問題を深く考えるきっかけとなりました。 確かにバラはどんな名前で呼んでもバラかも知れないけれど、Lisaにとっては自分の名前は単なる音の組み合わせではありません。 それを超えた、何か自分及び自分がやって来たバックグラウンドと深く結び付いているように彼女には感じられたのです。

もちろん、Jervisという名前は彼女のバックグラウンドを完全に表わしている訳ではありません。 自分の母親や祖母の家系の伝統が全く表現されていないばかりか、父親の側だって祖父の代で「Jersawit」というよりユダヤ的な名前から「Jervis」に変えたばかりなので、それ以前とは繋がっていないのです。 Christopherの側も事情は同じで、何代か前にアメリカに移民した時点で元の「Miyagishima」からより発音しやすい「Miya」に縮められた物であり、それほど昔に遡れる名前ではありませんでした。 しかし、それでもLisaは自分がこれまでの人生を生きてきた「Jervis」という名前には愛着があるし、それなりに自分のある部分を表わすように思えるのでした。

そうだからこそ、名前を変えるという事は、かなり大きな転換を意味します。 確かに女性が結婚によって夫の名字を受け取るという慣習には、かつてなら彼女の所有権が父親から夫の手に移される事を象徴していたのかも知れません。 しかし、お互いが進んで相手の名字を自分の名前の一部として受け取るならば、それはもっと素晴しい意味を持ちうると彼女には感じられました。 2人揃ってMiya-Jervisという名前を使う事が、尊敬と愛情に結ばれた2人の対等な絆に最もふさわしい象徴としてだと彼女は考えたのです。

こうして、Lisa JervisとChristopher Miyaの2人は結局Lisa Miya-JervisとChristopher Miya-Jervisと名乗ることで名前の問題に決着を付けました。 では、今回紹介する2組目のカップル、Jennifer WilchaとDavid Smithの場合はどうでしょうか?

【第6回 前編おわり/後編につづく

To Be Real

「Bitch」誌について

今回紹介したLisa Miya-Jervisは「Feminist Response to Pop-Culture」をスローガンとするフェミニズム系雑誌「Bitch」を編集しています。 第3次系の雑誌としては他と比べて飛び抜けていい内容で超お勧めです。 ポップカルチャーと言っても幅は広く、テレビ番組などのメディアから社会現象や流行まで第3次フェミニズム的な視点から考察されています。 ウェブサイトにもいくつか記事が載っているので、まずはそちらを覗いては。


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